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風水思想を儒学する
考古学一般本書の主題は、『発微論』という風水書が、四庫全書及び『提要』においてこのような待遇を受けた所以を探ることである。なぜなら、それは風水書というものにとって、十分に稀有な現象なのだ。意外に思われるかもしれないが、風水という占術は、中国社会において、必ずしも顕彰の対象となってこなかったのであり、むしろ風水思想の沿革は、儒教思想に基づいて風水思想を批判することの系譜と、常に併走してきたと表現して差し支えない。そうした流れは『提要』にも受け継がれたのであって、故に風水という占術や、風水書という文献ジャンル
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文書史料が語る近世末期タイ ラタナコーシン朝前期の行政文書と政治
考古学一般アユタヤの滅亡と、それを受け継いだラタナコーシン朝の成立、そののちは無変化、あるいは衰退。王朝の交替をのぞけば、その停滞的なイメージは同時代の日本や中国、朝鮮のそれと似ているのかもしれない。そして蓄積された問題を一掃して国家を一新したのが名君五世王であったのだ、と。しかしである。実は、このような歴史像は五世王などの改革当事者たちが描いたところが少なくない。彼らがそれ以前を否定的に描いたのは当然であり、我々はその歴史像を全面的に信用することはできない。また、このような歴史像では、何の下地もないにも
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ベトナム「おかげさま」留学記 「異文化」暮らしのフィールドノート
文化/民俗ベトナムを理解しているのか、いないのか。日常に埋没しながらもそう自問するうち、徐々に、「これがベトナム」といいきることはできなくても、私が出会った風景や人々のことなら何か語れるのではないか、ときに納得のいかない理不尽さに対面することもあるけれど、そうした経験を含めてベトナムにいることをまるごと味わい、楽しみたい、と考えるようになったのです。そして、それは、どんなに「文化」の内を揺れ動こうとも、多くの「おかげ」――人々から直接的、間接的に与えられる恩恵や刺激、あるいは叱責や無視であっても、そうした
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ミャンマーの女性修行者ティーラシン 出家と在家のはざまを生きる人々
文化人類学こう書くと、上座仏教社会の女性は一見男性出家者のような修行ができないように見えるが、比丘尼復興運動が起こるまでにも、女性の出家行為は全くなかった訳ではない。むしろ古くから家を出て剃髪し宗教的生活を営むティーラシンのような女性は、ミャンマー以外の上座仏教社会にも広くみられ、スリランカではダサシルマーター、タイではメーチーと呼ばれている。つまり、上座仏教社会の女性は、比丘尼としての正式な出家への道は絶たれているが、出家行為そのものが禁じられているわけではないのである。本書が取り上げるのは、比丘尼とい
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もっとアジアを学ぼう 研究留学という生き方
文化/民俗もっとアジアを学ぼう。学ぶためには留学に出かけよう。「留学」と一口に言っても、この語の意味するところは様々である。夏休みや春休みを使っての語学留学もあれば、正規の学生として海外の学校に学び、幾年もかけて学位を得るという留学もある。この本が皆さんにお勧めしようとするのは、そのどちらでもない。大学院生やポストドクターなどが自分で計画を立て、その計画を実現するために渡航先へ赴き、現地の大学や研究所などに、訪問研究者や外国人研究生の資格でお世話になる。そうして、一年や二年という期間を区切ってフィールドワ
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モンゴルの仮面舞儀礼チャム 伝統文化の継承と創造の現場から
文化/民俗本書では、「モンゴル・チベット世界」に存在するチベット仏教寺院の修会・チャムについて、その中でも民主化以降モンゴルにおいて復元復興が進められている〈フレーツァム〉を取り上げ、師承関係に基づく文化の伝播、それによって形成された文化圏における伝統文化の継承について考えていきたい。しかしながら、チャムは密教の秘儀であるため、堂内で秘密裏に執り行われる修会に関しては調査の範囲を超えている。それゆえ、秘儀の部分を除き、堂外で行われるチャムのうちで知り得た部分を記録と聞き取り調査によってつなぎ合わせていくこ
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わたしの体におこること なんでもガールズトーク!
社会心理女の子たちへのエンパワーメントの本! 30代の著者が、小学校高学年ぐらいから抱えてきたもやもやした性に関する話題を全ページイラストで紹介。思春期の子どもたちの体や心に関する困りごとについて、「気になるよね」「わたしもこんなことに悩んだよ」と、まるで隣りでおしゃべりをするようにつづっていきます。 ネガティブな感情もかくすことなく紹介した本書は「自分の体について知ることは、人生をどうやって主体的に生きていくかということと密接に結びついている」と感じられる作品でもあります。 リアルに、具体的に、
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ジブンの世界はジンブンでできている ―わかったことしか書かない哲学者×「研究」に興味がない考古学者×悩めるフィクション研究者―
哲学/思想自分は、何に興味があるんだろう? 学びたい気持ちはあるけど、何から手をつけたらいいんだろう? 自分ならではの視点で世界をとらえなおす「人文学」の研究者たちに話を聞いてみたら、寄り道・偶然・紆余曲折だらけの旅路が見えてきた!進路に迷う中高生のあなたにも、何かを学びたいと思い始めた社会人のあなたにも。読めば明日から「ジブンごと」探しを始めたくなる、まったく新しい「人文学」入門が誕生。三人のはみだし人文系研究者たちの濃厚インタビュー&対談集!【目次】・まえがき・第一部 わかったことしか書かない
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神風特攻隊のサイエンス データが語る過小評価と続「空気の研究」の研究
日本史一般笑顔で飛び立っていった日本の若者たちに捧ぐ! 特攻の実効性を、米軍資料と戦果データから再検証!帝国陸海軍とドイツ国防軍の比較を浮き彫りにする!仮想戦記「本土決戦」日本勝利のシナリオを収録!特攻資料から再構成する“もう一つの昭和20年”終戦時に焼却や廃棄されたとされる日本軍の機密文書。その多くは、アメリカの暗号解読記録として残されていた──。仮想戦記としての、日本勝利の“可能性”と“限界”を問う試論。昭和20年「本土決戦」は、単なる空想では終わらない。「空気」と「象徴天皇」の機序を読み解く知的考察
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舎利弗の物語 阿弥陀経の黙った主役
宗教/仏教『阿弥陀経』の舞台は祇園精舎。 お釈迦さまは弟子の長老である舎利弗の名をなんども呼びながら、語りかけます。舎利弗にどうしても伝えたいことがあるのです。お釈迦さま究極の教え、念仏往生です。多くの大乗経典で成仏できないとされる舎利弗に、『阿弥陀経』でお釈迦さまは、成仏できる念仏往生を勧めます。ところが舎利弗は一言の返事もできず、黙ったまま。智慧第一のすぐれた弟子であるのに。舎利弗は成仏できるのか。私たちはこれをどう受け止めればいいのか。これが『阿弥陀経』です。 著者の大窪住職は舎利弗の物語をじっく