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紙一重
文学平野をつっぱしる中仙道のほとりに、私立K脳病院は玄関口を街道にひろげて建っている。明るい近代的な建物ともみえるが、一足裏に回れば風雪にさらされた幾棟かの病舎がいかにも世ばなれた形でかくれている。ひろびろとした田圃の中に黒い瓦ぶきのその病舎はいかにも時代めいた姿だ。明治時代の小学校かとも見えるその変てつもない建物の中には、二百人の変てつ者がひっそりと世をはなれ、時に猛獣となる危険を内にひそめたしずかな喧噪さで暮している。みんな、いわば破れた風船を心の中に抱いているような人々だった。
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カミュとヴェイユ 信仰と愛をめぐって
エッセイヴェイユとカミュの関係は微妙で難しい、だから面白い。ヴェイユの死後、彼女が書き残していた原稿をカミュが読みその意義を認めて、ヴェイユを世に紹介する労をとったのである。我々はカミュのヴェイユ理解と評価を知ることができる。しかし、ヴェイユはカミュを知らないし、彼女のカミュ理解・カミュ評価を直接に知ることはできない。それでも、我々はヴェイユの事績・ヴェイユのテストの中に彼女のカミュ評価を推測することはできるであろう。【目次】第1部第1章人間のいない自然-カミュの原点-第2章不条理の倫理と神の拒否第3章
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カメラは光ることをやめて触った
詩/短歌/俳句夏の井戸(それから彼と彼女にはしあわせな日はあまりなかった)我妻俊樹の短歌を初めて集成する待望の第一歌集。誌上歌集「足の踏み場、象の墓場」から現在までの歌を含んだ唯一無二の686首。電子版にはおまけの栞は付属致しませんので、ご了承下さい。【目次】Ⅰ カメラは光ることをやめて触った喫煙する顔たち 偶然はあれから善悪をおぼえた窓をみせる穴 どちらも蜘蛛の巣の瞳 花瓶からきこえてくる朗読 学園への執着 その緑地 カメラは光ることをやめて触った サマーグリーン 星に見えない何か 猛獣
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カラ売り屋、日本上陸
経済/社会小説ニューヨークのカラ売り専業ファンド、パンゲア&カンパニーは、傘下のMS法人を使って病院買収に邁進する巨大医療グループ、架空売上げの疑いがあるシロアリ駆除会社、タックス・ヘイブンを悪用して怪しい絵画取引を行う総合商社絵画部とそれぞれ対決。窮地に追い込まれた相手は、何とか株価を吊り上げ、パンゲアを叩きつぶそうと画策するが――。金融市場に蠢く男たちの息詰まる攻防戦の果てに見えた日本経済の病巣とは!?【目次】病院買収王、シロアリ屋、商社絵画部
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カルチャーセンター
文学松波太郎はそこにいた。カルチャーセンターで共に過ごしたニシハラくんの未発表小説『万華鏡』が収録され、作家や編集者たちから寄せられたコメントに、松波太郎の説明責任までもが生じてくる文章と空白の連なり……松波太郎は、ニシハラくんに語りかける。「どうかな? これは何だろう? 小説なのかな?」 松浦理英子さん推薦!「小説を書きたいという欲望に憑かれていた若くほろ苦い日々を、哀惜をこめて振り返る松波太郎は本物の作家である」【目次】
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カレドニアン・ローズ
ミステリーおとぼけの日本人と才色兼備の英国人が珍妙な道中をしながらスコットランドの古城、謎を解こうとするが。。。【目次】プロローグ一章 クライ・オブ・ザ・ナイト二章 謎へのリンク三章 エディンバラを探せ四章 王家の秘密とストラスモア・キングホーン伯爵家五章 スターリング城とロバート・ブルース六章 ブレア城と私兵団七章 カローデン古戦場とテンプル騎士団八章 秘密の守護者エピローグ
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考えたことなかった
文学ある日、ネコに声をかけられた。「わたしは、未来のおまえなのにょー。」このままだと、おれの将来、たいへんなことになるらしい。いったい、どうして?知らないうちにさせられてる競争。「ふつう」は男子がおごるもの?おばあちゃんがなんでもやってくれる祖父母の家の「居心地の良さ」。どこかでつながりあった社会のしくみに気づいて考えはじめる男の子の物語。::::::::::::::::::::::::::::: なんでおれだけにさせるんだよ。なんでおじいちゃんはやらないんだ。おじいちゃんは男
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カンカラ鳴らして、政治を「演歌」する
エッセイ「オッペケペッポー ペッポッポー」「ア、ノンキだね」「ヨワッタネ 生活戦線異状あり」「演歌」とは、明治・大正期に流行した「演説歌」。面白おかしい詞を織り交ぜながら、時の権力や世相を風刺する。政府批判・演説が弾圧された時代、「それならば歌で」と街頭で高らかに歌いあげる演歌師が現れた。その草分けである添田啞蟬坊の流れをくむ現代唯一の演歌師・岡大介20年の記録。1978年生まれの岡は、寄席で、ホールで、「流し」として居酒屋で、そして山谷や西成などの労働者の街で歌い続けている。岡大介「演歌」動画付き!【
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観測者の杜
詩/短歌/俳句コンサルタント、セミナー講師として講習生累計70 万人の実績を携え企業経営の傍らサンマリノ共和国大使館の特別顧問として活躍している著者。拠点は地元鹿児島県鹿屋市に置き、自然と共に自然が発する声に耳を傾け、自然の微かな変化に目を凝らし続け自身の身体を通過した自然からの60のメッセージを珠玉の言葉につむぎました。どんなに社会が変化しようと人間は自然の中で生かされていて、混沌の時代であるからこその自然回帰を思い起こさせる、現代人に必携の書を和文英文オールカラーで、館野二朗氏の写真と共に世界中にお届けし