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自然保護をめぐる文化の政治 ブータン牧畜民の生活・信仰・環境政策
文化人類学本書は、ブータン政府の環境主義はブータンの仏教思想や伝統的慣習に根付いてもともとあったとする見方や、「賢明で慈悲深い国王と政府」と「従順な国民」との関係からのみ単線的にブータン社会を理解するやり方に絡めとられることなく、ブータンの環境主義と農村社会の暮らしとを、具体的な政策の変遷や長期的なフィールド調査のデータから捉えなおしていこうとするものだ。そのために、本書は二部から構成される。まず第Ⅰ部では、政府の森林政策の変遷および環境政策における語り、国際社会へ向けた王族の声明文、仏教思想の位置づけ、
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海を渡った騎馬文化 馬具からみた古代東北アジア
考古学一般もし仮に、朝鮮半島に「騎馬民族征服王朝」が存在したのであれば、当然、日本列島の「騎馬民族説」の問題にも直接的な影響を与えるにもかかわらず、日本国内においてこの韓国の「騎馬民族説」を真正面から取り扱った研究は、皆無であったといってよい。そこには日本史、朝鮮史(韓国史)、あるいは日本考古学、朝鮮考古学(韓国考古学)というそれぞれの枠組みを越えて議論することに対する躊ちゅう躇ちょや遠慮があったのかもしれない。しかし、あとで詳しくみるように「騎馬文化が来た」という点では、朝鮮半島もまた日本列島と同じであ
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カザフの子育て 草原と都市のイスラーム文化復興を生きる
文化人類学地域社会に生きる人々の生活に根ざした視点から、中央アジアのムスリムたちの文化復興をとらえることを本書では目指す。政策レベルでの変化をふまえつつ、中央アジアの人々の生活世界にわけいることによって、ポスト・ソビエト時代の文化復興についての理解をより深めることができるといえよう。その生活世界とは、イスラーム受容や社会主義経験のあり方という歴史的経緯によって、幾重にも入り組んだ世界である。中央アジアに暮らす人々のなかでもカザフ人は、モスク中心でないイスラーム実践を繰り広げてきたことが知られている。カザフ
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はかりとものさしのベトナム史 植民統治と伝統文化の共存
文化人類学度量衡は制度であり、それは王朝や政府が国家政策として行うものである。しかし一方で、それを受容し、実行していくのはその社会を構成する個々人である。植民地時代という特殊な時代においては、特に宗主国主導の政策、制度の受容には複雑な力関係や思惑が絡み合い、軋轢や葛藤が生まれる。まさにその過程においてこそ、その社会の個性を垣間見ることが出来るといえよう。本書は、度量衡という具体的な事例をもとに、国家から民間レベルの、四〇年という長期的時系列変化を追いながらベトナム社会の個性に迫ろうという試みでもある。本書
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ミャンマーの女性修行者ティーラシン 出家と在家のはざまを生きる人々
文化人類学こう書くと、上座仏教社会の女性は一見男性出家者のような修行ができないように見えるが、比丘尼復興運動が起こるまでにも、女性の出家行為は全くなかった訳ではない。むしろ古くから家を出て剃髪し宗教的生活を営むティーラシンのような女性は、ミャンマー以外の上座仏教社会にも広くみられ、スリランカではダサシルマーター、タイではメーチーと呼ばれている。つまり、上座仏教社会の女性は、比丘尼としての正式な出家への道は絶たれているが、出家行為そのものが禁じられているわけではないのである。本書が取り上げるのは、比丘尼とい
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中国・ミャンマー国境地域の仏教実践 徳宏タイ族の上座仏教と地域社会
文化人類学本書の構成は、以下のとおりである。まず第一節では、徳宏という地域と、そこに居住する徳宏タイ族の特徴、そして調査村の概略について述べる。第二節では、徳宏における上座仏教の特徴について考察する。特に出家者が少数にとどまる状況での仏教実践について、筆者が定着調査を行った徳宏州瑞麗市T L村の仏教儀礼の場と担い手に注目して述べる。第三節では、徳宏の仏教実践において重要な役割を果たす在家の誦経専門家ホールー︵ho lu︶による誦経実践の変容と継続に注目し、徳宏の在家信徒にとっての「仏教」のあり方に迫るとと
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スターリン期ウズベキスタンのジェンダー 女性の覆いと差異化の政治
文化人類学本書では、中央アジア・ウズベキスタンの「女性解放」をめぐる政治を、第二次世界大戦前のスターリン期に焦点をあてて検討する。「脱植民地化」から「連邦の統合」に向かうこの時代における、日常生活が営まれる街区(マハッラ)という場での、パランジに象徴される現地の「後れた」慣習へのソヴィエト政権の介入の実践に注目し、ソ連の国家成員として相応しいソヴィエト市民と「他者」がウズベキスタンでどのように創出されたのかについて、本書は明らかにする。ここで結論をやや先取りしながら述べると、一九二七年に「フジュム(攻勢)
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チベット人の民族意識と仏教 その歴史と現在
宗教/仏教チベット問題は、二一世紀に残る大きな課題の一つである。これらは、よく漢民族とチベット民族のあいだの民族問題とされる。そう考える人々にとっては、冒頭のような光景は信じがたいかもしれない。しかし、それは紛れもなく現実である。そしてこの光景はチベット問題を単なる民族問題とみるべきではないことを如実に物語っている。では、このチベット問題を我々はどのようにみるべきなのであろうか? 本著ではこの問題について、民族意識と仏教をキーワードとして考えていきたい。具体的には、まずチベットが「近代の衝撃」を受けた結果
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たけしまに暮らした日本人たち 韓国欝陵島の近代史
歴史一般このように、日本人(とくに山陰地域の人々)と歴史的に関係深い沿革を辿ることのできる欝陵島であるが、存外その近現代における史的展開については、研究の状況が著しいとは言えない。もっとも、欝陵島の歴史研究には、ある一定の蓄積があることも事実である。これは欝陵島が明治時代以前に、断続的な経済活動などを通じて、山陰地方の人々によく知られた存在であったこと、また、韓国では欝陵島の属島として竹島が位置づけられており、竹島領有権問題に付随する形で、欝陵島の歴史研究が行われてきたからである。しかし、こと植民地朝鮮
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文書史料が語る近世末期タイ ラタナコーシン朝前期の行政文書と政治
考古学一般アユタヤの滅亡と、それを受け継いだラタナコーシン朝の成立、そののちは無変化、あるいは衰退。王朝の交替をのぞけば、その停滞的なイメージは同時代の日本や中国、朝鮮のそれと似ているのかもしれない。そして蓄積された問題を一掃して国家を一新したのが名君五世王であったのだ、と。しかしである。実は、このような歴史像は五世王などの改革当事者たちが描いたところが少なくない。彼らがそれ以前を否定的に描いたのは当然であり、我々はその歴史像を全面的に信用することはできない。また、このような歴史像では、何の下地もないにも